六助さんの自己啓発 ☆ 外伝メモ7
構造は変わらない?
2004年2月
「でさー、セミナーっていったい何が悪いんだっけ?」
なんなんですか今さら。
なにが言いたいんですかヨシユキさん。良くないに決まってるじゃないですか。
高額の受講料まきあげて、無理やり参加させて、家族や社員を勧誘させて。精神障害になった方もいらっしゃるそうですし、受講中に死者が出たこともあるそうですし。そこまでいかなくても社長さんが会社をほったらかしにしてそんなものに没頭するなんて。
「それはおいといて、六助さん個人の話」
とヨシユキさん、
「なんか実害はあったんだっけ?」
今さら六助さんにそんなこと。だって六助さんは、社長さんから強要された。はるばる東京まで行かされた。時間と大金を無駄にして、こころが壊れそうなセミナーに参加させられたというのに。
「それはわかるんだけどさー」
ほかになんか「実害」はあった?
「むかつくんら!」
六助さん、怒ってます。会社にです。はまっている社長と同僚が偉そうでむかつくんだそうです。
「自分は偉くなったー」とばかりに他人を見下して。意味もなく態度が大きくて無闇にふんぞり返って。
「そんなの気にしなけりゃいいじゃん」
本人たちが自信を持ったのなら、それはいいことじゃないの? 今までみたいにヤル気のない態度よりマシじゃない? 毎日いきいきしてるんでしょ? それにサービス残業もいとわずに働いてるんなら社長さんも大喜びだし。ケータイで遊んだり無駄話してるよりも
「ずっと生産性が向上するじゃん」
ってそれ、ぜんぜん違う問題じゃないですかー。
組織に頼らないと仕事できないのって大人じゃない。と私は思うんですけど。それにその本人たち、ほんとに「その気」になってるんですか? 「なったつもり」ってやつでは? 醒めたら元の黙阿弥になるのでは? そのうえ創造性も奪われるんでしょ?
「しょせんあいつらの創造性ってその程度のもんらけもなっ!」
と吐き捨てるように六助さん。もともと馬鹿だと言いたいみたいです。
「グループまで作っとるし」
そうそう、それそれ。セミナー受講済の人たちによる仲良しグループ。それも上級コースを卒業したベテラン揃い。中小企業の取締役クラスが中心のようですけどー。
仮にそのグループ名を塩辛研究会(仮名)としておきます。おおむね都道府県単位で組織化されていて、全国に40くらいの塩辛研究会があるんだそうです。それぞれウェブサイトも開設されているとか。啓発本部の地方組織として機能しているのでしょうか。コストゼロで営業してくれる代理店みたいなもんです。
幸か不幸か佐渡島にはまだ塩辛研究会はありません。そのかわりTF会(これも仮名:トキを踏む会の略)というものがあるんだそうです。いずれは塩辛研究会に発展するんでしょうか。それとも本土の塩辛研究会に吸収されるんでしょうか。
ともかくメンバーは立派な社会人ばかり約百人だそうで。そういう人たちのお金とエネルギーが、いかがわしい本部組織に吸い上げられている。六助さんによると「搾取」されている。同じようなことが全国で起こっているに違いありません。ひどすぎです。
ヨシユキさん、へらへら笑いながら、
「それって、今までといっしょじゃん?」
え? いったいなんのこと?
どういう意味ですか。わかりません。
「地方と中央。その経済構造を考えてみなよ」
佐渡島の最大の産業は公共事業だよね? 国や県から補助金もらって。いっしょうけんめい働いて。給料をもらって。家へ帰って。休日のレジャーは買い物。家族で出かけてお金を落とす。外資系(本土系)のお店に…・。
「地方が儲けた金は中央へ還流する仕組みになってるんだよねー」
ということは。「TF会 → 本部組織」というルートは、新しい還流パイプがまた一本できただけ。ってそういうことですか? 外資系の巨大店舗ができたのといっしょ、ということですか? なんか突飛ー。
「でもや、すげえんだよ!」
六助さんが異議をとなえます。なぜかというとTF会には有名企業がたくさん顔を並べている。いろんな業種を網羅して、社会的に信用のある人ばかりが顔をつらねて。やろうと思えばなんだってできる。極端な話、本部の手先と化して島を乗っ取ることだって。
「しょせん、ただの親睦団体なんでしょ〜?」
と、気勢をそぐようにヨシユキさん。
そんなー。親睦団体だなんて。得体の知れない自己啓発。そういう組織の手先じゃないんですか?
そもそも、なぜそんな会ができたんですか。どうせ本部が作らせたんでしょ? セミナー受講者を組織化するために。いつまでも醒めさせないために。より高額の受講費を搾り取るために。
「お布施をまき上げるカルトみたいなもんら」
と六助さん。叩きつけるような口調です。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
なにがだいじょうぶなもんですか。
「ふつうはすぐに醒めるって」
ヨシユキさんいわく、まわりが心配するほどじゃない。なかには長期にわたって没頭する参加者もいるけれど、それは決して多くない。ほとんどの人は一年もしたら元通り。あとに残るのは、本人たちの恥ずかしい記憶と、勧誘活動を通じて破壊された人間関係と、そして親睦団体としてのかたちだけ。わかる? 親睦団体としてのかたち。
「新しいビジネスネットワークの誕生だよ、これ」
さっぱりわかりません。六助さんもぽかんとしています。
「ひょっとしたら期待の新星!」
ヨシユキさん、ひとりで盛り上がって(勝手に)説明を続けています。
昔から世間にはいろんな業界団体があるよね? 土建屋さんから医師会まで。青年会議所ってのもある。ともかくそういう団体があって、補助金を皆で分配する仕組みができていた。与えられた生活費を分けあうシステム。日本的な仲良し集団。
ところが国はいまや借金まみれ。補助金もカット。これまでのやり方では生き残れない。構造改革しなくちゃいけない。
「さてどうしたらいいと思う?」
といきなり聞かれても。セミナーの話をしていたのに。
いきなり業界団体と構造改革。話が飛びすぎて意味不明。ともかく会社は頑張るしかないのでは?
ていうかそもそも私、今までのやり方って良くないと思うんですけど。
だって、ヨシユキさんは良い言い方をしましたけれど、業界団体って談合とか集票もしてたんでしょ? 政治に圧力をかけてたんでしょ? そして補助金の無駄使いして海岸をコンクリートで固めて決められた政治家に投票して。そんなの、いいわけないじゃん。これからは企業淘汰の時代。
「てことはさー」
とヨシユキさん。
「へたしたら共倒れだよ?」
うーん、そう言われると…・。
でも私、思うんです。いったん墜ちるところまで墜ちないと創造はないような気が。破壊がなければ再生もないというか。
そもそも皆で補助金にしがみついてるなんて見苦しいったらありゃしません。会社も倒産してとことん苦労して自分の足で立ち直らないと。そうじゃなければ何も変わらない。それでこその構造改革。そんな気がするんですけど。
「でも喰わんきゃならんし …・」
「路頭に迷ったら困るもんねー」
たしかに。それもそうですね。子供の無責任な発言でした。
「やっぱり本人たちは必死だろうしさー」
あの手この手で生き残りをはかろうとする。残念ながら今までの業界団体はもはや機能しない。圧力団体としても集票マシンとしても威力を失った。日本型システムの終焉。これからは一人で歩きましょう。友だちは皆ライバル。蹴落とさないと生き残れない。
嫌です。淋しいです。仲間がいないと淋しすぎ。だっていつも皆と横並び。これからひとりでどうしろと。そんなの嫌。
そこに登場しました。期待の新星。塩辛研究会&TF会。名だたる企業が人材を。それも過去のしがらみには縛られない。啓発経験者だけの新しい世界。
「ね、新しいかたちの企業親睦団体じゃん」
少なくとも社外ネットワークには違いない。新しいビジネスチャンスも生まれるかも。 って、そうかー?
「セミナーの呪縛から醒めた後には、そうなるって。たぶん」
なんか突飛な気もしますけど。そう言われるとそんな気もしたり…・。
「馬鹿ばっかり集まっても仕方ねえねかさ!」
と反論する六助さん。あいかわらず吐き捨ててます。よっぽどむかついているようですけど。ちょっと言い過ぎでは?
「本部のええように動かされとるだけだっちゃ」
そう言えば前に私も書きました。各地の塩辛研究会は地方議員まで取り込んでいる。本部組織の狙いは何? ひょっとしたらひょっとして…・。
「恐ろしいことになるかもなあ」
本部組織は地方自治に影響力を及ぼそうとしているのかも。塩辛研究会などを通じて市町村を意のままに。いえ、国政さえ動かそうとしているのでは。
「それだって今までといっしょじゃん〜?」
過去の業界団体と同じ、ということですか。
そういうもんですかー。