六助さんの自己啓発☆14

あなたなら?

2003年8月


ある日のこと。社長さんが寄ってきました。満面の笑みをたたえています。へんです。社員に愛想ふるような人じゃありません。

「まおちゃん、今日ひまー?」

ひまなわけありません。さっさと帰ってサイトを更新したいです。 あっ、 肩に手をかけました。脂ぎった顔が近づいてきます。鼻の穴が開いています。荒い鼻息が、ふんふんふん。

「いいじゃん、ねぇーちょっとくらいー」

うひーっ、寄るなさわるなセクハラ親父ーっ。

「実はさー、とってもいい研修があるんだよぉ〜?」

言いせまる目はいつのまにかガラス玉。平べったい顔つき。工業製品のような笑顔。個性を失ったゾンビ。

「君は我が社の大切な社員だからさあ〜」

取り囲まれました。同僚です。アヤちゃん、モエちゃん、六助さん、ヨシユキさん。その目はみんなガラス玉。みんな同じ、のっぺりした笑顔。手をつないで私のまわりを。唄ってます。楽しそうに。♪か〜ごめ かぁごぉめ〜 かぁごのなぁかの とぉりぃはぁ〜〜♪
みんなの影法師がゆらゆら揺れながら迫ってきます。だめです。逃げられません。


「君は我が社の大切な社員だから」


「君は我が社の大切な社員だから」



「ぜひこの研修を」



「ぜひこの研修を」



「ぜひこの研修を」



「さあ君もいますぐ」





やめれ〜っ!!




















飛び起きました。 ぼーん ぼーん ぼーん。 柱時計が午前三時。
全身びっしょり。鳥肌がぞわぞわ立っています。

これって、もしかしたら予知夢? 私も大人になったら。会社に入ったら。こんなふうに取り込まれていくのでしょうか。
いやです。絶対に嫌です。いったいどうしたら。





エンロール(新人勧誘)のポイントは、こんな感じだそうです。

  1. アメリカの最新心理学を応用した科学的研修である。(権威づけ)
  2. 私も参加した。素晴らしかった。(実体験)
  3. 絶対に君のためになる。この俺が保証する。(顔の押しつけ)
  4. 金はこれだけ出してやる。(恩の押し売り)
  5. だからいついつまでに行くべし。(期限付き)
  6. わが社のために、ぜひ行くべし。(暗に社命)
  7. 内容も知らないくせにイヤだと言うな。(反論封じ)
  8. 俺の言うことが信じられないのか。(論点のすりかえ)
  9. さあ、いますぐ申込書に記入を。(考える時間を与えない)

むちゃくちゃな理屈です。

言ってる本人は熱烈に正しいと思っているので手がつけられません。しかも必死で喰らいついてきます。だって同級生全員の前で勧誘人数と締切日を宣言してきたのですから。





独身の人に対してはこういう勧誘も。

  1. 研修を受ければ視点も生き方も変わる。
  2. したがって人間関係が拡がる。
  3. だから彼女がみつかる。

生き方を説くふりをしながらも、しぶとく実利的です。まさしく、あれ系のパターン。
セミナーの内容は絶対に教えてくれません。なぜかというと「事前に知ると効果が薄れるから」。やっぱりあれ系の匂いがぷんぷんします。





正直に言います。

そういうセミナーは大嫌いです。私は絶対に行きません。

六助さんの話を聞いてからいろんな本やサイトも見て勉強しました。得体の知れないマインドコントロールとしか思えません。仕事の上下関係を利用した勧誘方法もひどいと思います。

「体験もしていないお前に、いったい何がわかるんだ!?」

じゃあ内容を教えてください。良いものなんでしょ? だったら教えてください。

駄目ですよ「俺のことを信じろ」とか言って問題をすりかえても。具体的に聞かせてくれなきゃ信じません。
悪い話はいっぱい聞きます。それなのに「俺が保証する」と言われたって。俺が俺がと百回言われたって。いったいどうして信じられるんですか。それともあなたが 私の人生に責任をとってくれるんですか。





「あなたの人生に責任をとるのはあなたしかいない」

ということは。

いえ、あなたがセミナーにはまるのはあなたの勝手です。好きにしてください。でも私まで勧誘して巻き込んで、もしも私がへんになったら?


Q:受講後、精神科への入院・通院した方もいたんですか?

A:(前略) 紹介者によると、「何で僕にこんなセミナーを紹介したんだ」と、泣きながら電話をかけてきたのを最後に入院してしまったとのことです。

(中略) 別のある男性は、4日修了後、精神に異常をきたしてしまい、職場や家庭内で意味不明の言動だらけで、やはり精神科に行くことになってしまったということです。紹介者である中年男性は、その人の奥さんから「夫を元の状態に戻して家に帰してくれ」と泣きながら罵倒され、自身も泣きながら土下座したそうです。

自己啓発セミナー対策ガイド > I社体験者インタビュー から引用

自己啓発セミナー対策ガイド:http://www.geocities.jp/seminar_spirit/



泣いて土下座したって駄目です。一生その罪を背負ってください。
組織は責任なんかとりません。当然です。だって、あなたのやったことはあなたの責任なんですから。
あなたは相手のためだと思って勧誘したんでしょ? それとも自分の営業成績のためだったと認めるんですか? どっちにしても責任者はあなた。勧誘した人がへんになったら まぎれもなくあなたの責任。





「でもさー、たぶん無駄だと思うんだよねー」

と、ヨシユキさん。

はまった人には何を言っても無駄。なぜかというと、私たちが「ひどい」と考えているのと同じ程度に、はまった人は「良い」と考えている。だから何を言っても通用しない。それがマインドコントロール。

なかにはコントロールされているという自覚を持ちながらも抜け出せない人がいるそうです。なぜなら組織とアシスタントとパートナーはその人にとって「家族以上の存在」だから。世界でいちばん居心地のいい場所だから。そんな人に立ち直ってもらうには訓練された専門家の力と長い時間が必要。だから、

「僕らみたいな素人がなに言ってもだめだろうなー」





もうひとつ、正直に言います。

勧誘されたからといって参加する人のことも私はよくわかりません。なぜいったい、そんなものに参加するんですか。

スーパーでどういうふうに買い物してますか。手にとって確かめませんか。値段を比べませんか。鮮度や安全性は気になりませんか。店員さんが「これは良い」と言ったら中身が知れない物でも買うんですか。しかもこちらはセミナーです。えんえん時間をとって、何万円も取られて。

内容も知らないのに参加する。なぜかというと薦められたから。ってそれ、その人に判断をゆだねてませんか。自分の頭で物事を考えてますか。言いなりになってませんか? その時点ですでに「人生に責任をとっていない」ような気がしてなりません。

だから私には、残念ながらこうとしか思えません。

やるほうもやるほう。
参加するほうも参加するほう。
どっちもどっち。





「不完全性に気づくことからしか改善や創造は生まれない」

この文章に反論できない人は、私は行かないほうがいいと思います。
反論できる人も、行かないほうがいいと思います。相手はプロですから。

そして、この文章に感心しちゃうような人は、絶対にやめといたほうがいい と思います。

あなたはどう思いますか。





それにしても不思議でなりません。

いくら人間関係を利用して強要されたとしても。立場の弱い平社員ならいざ知らず。いい年こいた社長さんたちが、なんでいったい取り込まれるんですか。

「自己革新なき企業に未来はない」

だからお金払って入会してるんですか。それって、エステにはまってるおばさんと一緒じゃありませんか。お金さえ払えばなんとかなるっていう幻想に生きていませんか? 失礼なこと言っちゃってごめんなさい。でも私の貧しい頭にはそうとしか思えません。

銭亀さんはこう言ってました。


「挑戦する」だの「本気でやる」だの、わざわざ金出してそんなこと聞きに来やがって、ちゃんちゃらおかしいってんだよ。金さえ出しゃあ教えてもらえるっていうその根性が気に喰わねえ。そんなヤツに商売なんかできるものか。
本気で修行したけりゃ風俗業界に来い。言っとくけど、はやりすたりが激しいぜ。「自己革新」ってやつを必死に続けねえとすぐ破産だ。


いつまでも組織に頼って「自己革新」を続けるなんて。自分の足で歩けないってことでは? しかも新たな人を勧誘し続けるなんて。自分とまわりの人を客観的に見れない中途はんぱな人。大人じゃない。自己チューもいいとこ。私にはそうとしか思えないです。ごめんなさい。


セミナーでは、問題はどこまでも個人の問題として処理されます。たとえエンロールでドロドロの人間関係に陥っても、自分自身の問題である限り、かっこよく言えば「他者は不在」なのです。

自己啓発セミナー対策ガイド > 私のセミナー体験 から引用

自己啓発セミナー対策ガイド:http://www.geocities.jp/seminar_spirit/






そういう会社が、まわりからどう見られているか。

ある会社に出入りしている人から聞きました。最近そこは会社ぐるみで「研修」に没頭してるとか。事務所の壁にはセミナー関係の賞状かなにか、額縁がずらり。
本棚にもへんな本がいっぱい並んでいるそうです。あれです。「信長に学ぶ成功術」とか「驚異の革命思考で人生を勝ち抜け」とか「遺伝子がめざめる実践の自己革新」とか、そんな感じのあれーな本。いずれも組織が出している「教材」。

「おめーも行かないかって誘われたんだけど、気味が悪くてさー」

休日には会社ぐるみで「ボランティア活動」や「研修」に励んでるそうです。ちなみに私に教えてくれた人は、組織については何も知りません。ただ、会社の雰囲気からどことなく「カルトくささ」を感じたようで、「あれ、宗教だよなー」とものすごく気味悪がってました。





でも。私には自信がありません。

もしも私が大きくなって就職して。社長さんから迫られたとしたら。参加しなけりゃクビにするぞと暗に脅されたら。私は立ち向かえるでしょうか。今でこそ六助さんに「辞めちゃえー」と言えますけれど。人には無責任なことを言えるのですけれど。

ヨシユキさんから言われました。

「たとえばさー、会社でセクハラとかされたらどうする?」

絶対いやです辞めますそんなすけべ会社。あたりまえ。

「だったらセミナーもいっしょじゃないかなー?」


もしも社長から「行け」と言われたりしたら、その社長がその手のセミナーの素晴らしさを説いて来た場合、貴方にはひとつだけ取れる方法があります、俺にはそれしか思いつきません。
その会社、辞めたほうがいい。
何、仕事が無くなったらどうするんだって?
社長がそんなもんに入れ揚げている時点で、その会社の浮沈は見えたも同然だと考えた方がイイと俺は思います。なんとかして退職金せしめて逃げろ。

最終規格研究所 > 日々乃是雑感(7月12日)  から引用






六助さんの同僚は、ますます深みにはまっているようです。
休み時間になるとケータイで話し込んでます。お相手はアシスタントやパートナーのよう。満面の笑みで元気よく、

「いやー××さん、すごいですねー。俺も頑張らなきゃ」

「えっ、もう×人もあれしたんですか。まいったなー」

「俺もマジでやりますよ! 見ててください、本気で挑戦っすよ!!」

大声で話し込んでいるのです。

そのうえ、ときどき「東京出張」に出かけます。
何泊かして帰ってきた同僚は、さらに磨きのかかったきらきら目玉。しかもなぜかガラガラ声。声の出しすぎでのどを痛めた気配。てことは。
ひょっとして自分もアシスタントをやっているのでは。あのセミナー会場で。密閉された空間で。100人の生徒相手に大声はりあげて。輝く笑顔で猛ダッシュを繰り返して。朝から晩までいっしょうけんめいに。そして感動の「花束セレモニー」。充実した人生です。

そのうえ同僚、最近は態度も大きいのです。なにやら「自分は偉い」とでも思っているような感じ。まわりから見たらへんになっただけなのに、ご本人と仲間たちに言わせると「変わった(良くなった)」。ひとりよがりの自信。だから六助さんが馬鹿に見える。

その頂点に立つ支配者 しぶちんの社長さんも、ますますあれです。口から出るのは「社会貢献」とか「社員さんは経営のパートナー」とか、借りてきたようなせりふばかり。ところが現実の態度は以前にもまして「社員は歯車」「一個の部品」。そんな感じだそうです。
わかります。だって社員全員、同じ理念を共有することができたんですもの。パートのおばさんですら「経営者の視点」に立たされるんですもの。与えられた権限や給料はぜんぜん違うのに責任だけは同じように負わされる。そうだとしたらワンマン社長の天国です。



セミナーには、よりよい社会を目指そうといった面は全くありません。社会的には非常に保守的です。私は、そのこと自体が多くの人を惹きつけている要因ではないかと考えます。

自己啓発セミナー対策ガイド > 私のセミナー体験 から引用

自己啓発セミナー対策ガイド:http://www.geocities.jp/seminar_spirit/






六助さんの表情は重いです。会社に行くのが嫌だと言うのです。気味が悪いから。ついていけないから。そんな人たちといっしょにいたくないから。

もうすぐ六助さんは辞めるかも知れません。
残った同僚からは「逃げた奴」と嘲笑されるのでしょう。

それはきっと、ものすごく辛い選択だと思います。妻子のある人ですもの。不景気な佐渡島ですもの。
でも、自分の頭で物事を考えられる人ですから、なんとかなる。いえ、なんとかなりますように…・。
そう祈るしか私にはできません。





書きたいことはまだまだいっぱいあります。
とりあえず終わります。


貴重なお話を聞かせてくださった六助さんに、深く感謝します。
また、引用させていただいた皆さま、ほんとうにありがとうございました。



(おしまい)







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