六助さんの自己啓発☆13

回想

2003年7月


ここまでのセミナーのお話は、すべて六助さんから聞いて書きました。

そして唐突ですが、セミナーについてはこれで終わります。それが六助さんとの最初からの約束だったので仕方がありません。

六助さんは今でもかなりびびっています。これ以上セミナー本体についてばらすと、いやおうなく六助さんの個人名を特定できると言うのです。
もしも組織の人に見られたらいっぱつでアウト。社長さんにつげ口されてクビになるかも。そうでなくても会社に居づらくなることは間違いありません。なぜならば…・、 ってこれは次回に少しだけ書けると思います。





セミナーの間ずっと警戒して意識を保ち続けていた六助さんは、「気が狂うかと思った」と言っています。むしろ 相手の言いなりになったほうが絶対に楽だった と言うのです。

愚痴っぽくなっちゃいますけれど、実はここまでのお話はものすごく苦労して書いたのです。なぜかというと、六助さんの記憶がとんでもなくあいまいだったからです。

「ぼやーっとしてて、よくおぼえてねえ」
「かすみの向こう、っちゅう感じ」

と言うのです。不思議です。

たしかに頼りない人ではありますけど、ボケた人ではありません。記憶力は並盛です。本人もなぜ思い出せないのか不思議がっていました。この記憶障害もひょっとしたらあれの結果なんでしょうか。

質問を重ねているうちに、ようやくぽつりぽつりと思い出して話してくれました。これ、ものすごく時間がかかったのです。一ヶ月以上かかりました。

ですから当然あやふやな内容は残っています。完全に事実を書いたとは言えません。むしろ六助さんの体験をもとにして作ったお話だと思っていただいた方がいいかも知れません。
そういうこともあって組織名等をふせました。いちおうアップする前に六助さんからチェックしてもらってますから、そんなにずれたことは書いてないと思いますけど。

ただ、六助さんを特定されないように、わざとあれして書いた部分もあります。同じ理由で、六助さんの実体験なのに「銭亀さんから聞いた話」として書いた部分もあったりします。ごめんなさい。どうかごかんべんいただければと思います。





さて、銭亀さんです。
六助さんの証言によると、銭亀さんですら最終日にはどことなくテンションが上がっていたそうです。「今から思えば」という但し書きつきですが、ある程度は影響から逃れられなかったようです。
手口をよく知っているはずの銭亀さんでもこの状態ですから、六助さんが完全に正気でいられるわけがありません。「花束セレモニー」の際には 感激のあまり涙をこらえられなかった そうです。ちびります。

それから、ヨシコさん。
おぼえていらっしゃいますでしょうか。アシスタントを見て「きもちわるー」とつぶやいていた女性です。陰険そうだけど頭は切れそうな人。死んでも洗脳されそうには見えません。
そのヨシコさんも、セミナー後半になると喜々として発言していたそうです。しかもグループワークでは率先して走り回っていたそうです。
さらに恐ろしいことに、それを見た六助さん、ぼよーとした頭で「いいなあー」と思ったとか。 楽しそうでうらやましかった んだそうです。こわすぎです。ヨシコさんも、六助さんの心理も。





ただ、銭亀さんが言っていたとおり、この組織はある意味「そんなにひどくない」ようにも思えたりします。なぜかというと、セミナーの途中でトレーナーから質問を投げかけられた生徒の一人が挑戦的な態度でこう発言したのです。

「これは私はマインドコントロールだと思います」

六助さんは震えあがりました。発言者が袋叩きにされると思ったからです。
ところがトレーナーはその発言をあっさりスルー。完全に黙殺して話を続けました。 この黙殺戦法がトレーナー個人の考えによるのか、それともマニュアル化されたものなのか、それはわかりません。
セミナーは最終段階にさしかかっていたそうです。わざわざ落伍者を吊し上げるよりも無視したほうが良いと考えたのかも知れません。





それから、こんなこともありました。やっぱりトレーナーが質問を投げかけたときです。
ほとんどの生徒は「ハイ!」と大声で挙手しています。六助さんは疲れ切っていて、ろくに話を聞いていませんでした。でも一人だけ手を上げないと目立ちます。ですから六助さん、まわりに調子をあわせて適当に手を上げ下げしていました。そしたら当てられちゃったんです。

「はい、六助さん! どうぞっ!」

あわわわわ。やばやばですー。だって質問を聞いてなかったんですもの。
仕方なく立ち上がって言いました。こともあろうに、こんなこと。

「ええと…・、なんでしたっけ?」

生徒とアシスタント合計100人以上が注目しています。袋叩きの予感です。と思ったら、これもあっさりスルーされたそうです。
やっぱり落伍者の面倒をいちいち見る段階は過ぎていたようです。





組織の人の立場になって考えてみます。
会社単位で網をかけるわけですから、少数の落伍者をわざわざ追い回すのは無駄です。網にかかった多数派を育成するほうが効率が良いです。

だから落伍者は逃げるにまかせておく。そういう意味では「そんなにひどくない」。でも逆に、だからこそこわいと思うのです。カルトみたいに社会問題にはならないから。なのに、いつのまにかじわじわと拡がっているから。





六助さんも銭亀さんも落伍しました。上位コースに進む8割の中には残れませんでした。
せっかくのセミナーなのに自己革新できなかった。大きなチャンスを無駄にした。人生をなげうった敗残者。逃げることしか考えてない。本気で生きていないナマケモノ。挑戦する心を失った人間のクズ。

それで良いと思います。

六助さんは、私の直接の知り合いですもの。ゾンビ化したら次の標的には私も含まれていたに違いありません。

ゾンビにはなりたくありません。

私は自分の頭で物事を考えられる大人になりたいです。







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