拉致の周辺 5

まったり島の人々編

2002年11月


今日はふつうの人々のお話。エピソードの羅列です。オチは特にありませんので期待しないでくださいね。





■ 来るなら飲むな。


曽我ひとみさんが帰島される前夜。お酒好きの留蔵さん(仮名)は、いつものように仕事帰りに一杯。そのまま車で家路につきました。
佐渡島には電車がないので飲酒運転が認められています。車じゃないと帰れないので仕方がありません。ただしビール2本とお酒三合まで。週末はウイスキーも可。日中はワインのみ推奨。そんなわけありません。ほら言わんこっちゃない、前方にお巡りさん発見。検問中。まさかこんな時間にこんな場所で。

「はい免許証見せて」

「 …… ・ ・ 」(息を止めて差し出す)

お巡りさん、ちらっと見ただけで返してくれました。

「事故が多いから気をつけてね」

どうやら飲酒の検問じゃなさそうですけど。

「明日、曽我ひとみさんが来るからねぇ」

だからなんなんだよー、と留蔵さん、ぷりぷり怒ってました。ひとみさんのせいで命が縮まった。って飲酒運転やめたほうがいいと思いますけどー。






■ 泣ける叔母さん、名古屋から来る。


集落に殺到したマスコミさん。曽我家のまわりで手当たりしだいにインタビューをこころみました。
ご近所の皆さまはテレビに顔が出まくって、にわか有名人になりました。又八さん(仮名)もそのおひとりです。仕事中に喫茶店でさぼっていたら、さっきからじろじろ見ていた隣席のおばさんが話しかけてきました。

「あのー、曽我さんはご近所だそうですのう」

「そうですけど…・」

有名人になった気がしてちょっぴり嬉しかったり。

「うちに今、名古屋の叔母が遊びに来とるんです」

「はあはあ」

「その叔母が言うんとるんですけど」

ひとみさんに一目会わせてもらえんだろうか、と。
まさかその叔母さん、行方不明の家族がいるとでも。拉致された疑いでもあるんでしょうか。ひとみさんと連帯したいとか?

「テレビ見てたらもう泣けて泣けて、ひとこと激励の言葉をかけてやりたいって」

お気持ちだけでけっこうです。みゃあみゃあ。味噌煮込みー。






■ 誰のおかげで。


マスコミさんが長期滞在したホテル。ばつぐんのロケーションです。だって客室から曽我家を見下ろせるんですよ! ほとんど覗き屋さん。
おかげでホテルはときならぬにぎわい。観光シーズンでもないのに貸し切り状態です。ていうか忙しくて目が回る。人手が足りなくて死にそうです。ああ、そんなときなのに、

「すみません、明日も休ませていただきたいんですけど…・」

と申しわけなさそうに切り出したのは、ひとみさんの親戚の方。曽我家を手伝いに行かなくちゃいけないのです。
仕方ありません。だって曽我家はふたりきり。ひとみさんとお父さんだけ。そのうえお二人とも車の免許がありませんから、なにかあったら親戚が手伝ってあげるしかない。ところが。

「また休むのー?」

と同僚の皆さま、不満顔。

「この忙しいときに」

わかります。職場はシーズンオフなのに激忙。おまけにお客様は行動パターンさっぱり意味不明なマスコミの皆さま。

「いつも困ってんのよねー」

ぶうぶう言ってるところに上司が登場。部下たちを見回して一喝されたとか。

「おめたち、いま誰のおかげで繁盛してると思っとるんら!」






■ ヘイ、タクシー!!(その1)。


タクシー業界もバブルです。マスコミさんが貸し切りで契約してくれたからです。ところがここは田舎の離島。運転手さんものんびり。だからカネマツさん(記者・仮名)は激しくカルチャーショックを受けました。

ひとみさんの記者会見が終了。さあ、次の現場へ走れっ。駐車場へダーッシュ!
ところが運転手さんがどこにもいない。空のタクシーだけが並んでいます。他の記者さんも右往左往。するとドライバー軍団は道ばたで。車座になって、うんこ座りでタバコふかしてたそうです。おめーらそんなとこで なごんでんじゃねーよ!

「早く早く、あの車を追って!!」

「あの車ですかー」

どっこらしょいと腰を上げます。早く早く!

「どの車でしたっけー」

外を見もせず灰皿にタバコ。

「だからあれだよあれ。早く行ってくださいよ!」

「ああ、あれー?」 がちゃがちゃ。(シートベルト装着中)

一分一秒が勝負のカネマツさん、胃に穴が開きそうになったそうです。






■ 峰不二子さんと過ごせるなら。


島流し 長期滞在されているのはマスコミさんだけじゃありません。外務省の担当さんも何人も。なんの因果かこんな離島に。秋も深まる日本海で、のどかな田舎暮らしを満喫する日々です。
そのなかのおひとりが地元で大評判になりました。ものすごい美人。だと言うのです。

ルパン三世の峰不二子さんにそっくり。うり二つ。生き写し。そんな美人セクシーお姉さんが毎日ホテルから役場まで自転車通勤。集落内をさっそうと黒髪なびかせて走るのでした。男の人たちは心臓ばふばふ。

独身の人だけじゃありません。枯れ木のような爺ちゃんたちも首ったけ。なかにはこんなことを豪語する人まで。

「あの姉ちゃんと過ごせるなら全財産はたいてもええ!」

あのー、「過ごせる」ってどういう意味。






■ 温泉入って3,000円!


ご近所の権介さん(仮名)。連日の取材攻勢でたまった疲れをほぐすため、ある日温泉へ。たっぷりつかって湯上がりの体を乾かしていたら。

「あのー、あんたは曽我さんの近所の人らのう」

「そうですけど?」

「よかったよかった!!」

いきなり握手してきます。見ず知らずのおじさん。満面の笑み。

「近けーうちに曽我さん連れて牡蠣喰いに来てくれ!」

「お宅、なんか食堂でもやっとるの?」

それには答えず財布をごそごそ。

「ま、これやるし。ひとつ頼むわさ」

出たーっ、お金です。しかも札束。

「なな、頼むっちゃ」

有無を言わさず手に握らせようと。しかも土下座せんばかり。

「いやー、近所に住んでてもなかなか話できんのんら」

「そんなことねえだろ、なな、ひとつこれで」

「そうもいかせんし。外務省におうかがいせんとなぁ」

「そう硬えこと言わんでさー。×××(地名)の牡蠣もPRしてえんだし」

どうやら牡蠣養殖の業者さんみたいですけどー。

握らされそうになった札束は、千円札が三枚。これがひとみさんのCM出演料ですか。






■ 無職無収入、当たり前。


なごみ系の話題ばかりではありません。いやおうなく有名になったひとみさん。あんのじょう、いやがらせの電話がかかってくるようになりました。ああ、これが日本という国。当事者から遠い人ほどそういう暗いことをするようですけど。いわく、

「嬉しそうにテレビばっかり出やがって!」

べつに出たいわけでは。

「いつも良いお着物、着ていらっしゃいますこと!」

ぜんぶ寄付していただいた服なんですけどー。

本土から佐渡島までの電話代、馬鹿にならないと思うんですが。悲しい人もいるもんです。

そうこうするうちに、島内でも批判的なことを言う人が出てきました。

「なんでいつも遊び歩いてるんだよ!」

って散歩してるだけなのに。ていうか、そもそも無職なんだし仕方ないじゃんー。






■ ヘイ、タクシー!!(その2)。


「だからあの車だよあれ。早く行ってくださいよ!」

「はいー」

運転手さん、やっと発進してくれました。ですけれど、とろすぎ。なぜそんなにゆっくり走る。おまけに頼んでもいない観光ガイドまで。

「あそこの山。ほらあの山なー」 (脇見運転)

「は?」

「あれが金北山っちゅうて、佐渡でいちばん高い山なんだわー」

サービス精神旺盛です。それはいいから早く早く。

「このあたり、ほら大豆ばっかり植えとるでしょー」

「 ・ ・ ・ ・ ・ 」 いらいらいら。

「皆、減反で米やめてしもてのう」

こころなしか悲しげな声。農政の歪みを一身に背負う農夫の悲哀。もくもくと耕し続けたその背中は何を語る。ていうかメーター見たら時速たったの40キロじゃないですかー。カネマツさん、もう気が気じゃありません。

「この×××っちゅうホテル、部屋は汚いけど料理はうま。おっと」

うひー、危うく追突回避。よそ見してるから。と思ったら ききーっ。またもやブレーキです。なぜ停まる?

「信号らしのうー」 (黄色)

そんなもの突っ切れよー。とも言えずカネマツさん、ほんとに胃に穴が開いたとか。

マスコミの皆さまもたいへんお疲れさまでございましたー。







納屋へ戻るトップページへ戻る写真日記1を読む